Vol.150
- ビジネス
- インテリア雑貨のDULTONから防災バッグが誕生。開発者が語る、デザインと機能に込めた想い
Vol.46
インテリア雑貨のDULTONから防災バッグが誕生。開発者が語る、デザインと機能に込めた想い
1988年創業のインテリア雑貨メーカー、DULTON(ダルトン)。まるで海外の雑貨店に迷い込んだような感覚が楽しめる、デザイン性の高いアイテムが揃う人気ブランドです。「道具を愉しむ、もうひとつの豊かさ」という理念を掲げる同社は2022年3月、「EMERGENCY BAG」シリーズを発売しました。海外のメディカルバッグの機能美を継承した、いま最も注目すべき防災バッグ。今回は「EMERGENCY BAG」シリーズ開発チームの大池由希也さん、本多勇貴さんにお話しを伺いました。
コロナ禍を機に生まれた企画
防災に目を向けたきっかけを教えてください。
以前、地震が増えたタイミングで防災用品を入れておく防災バッグを探したことがありました。ところが百貨店やホームセンターを回っても、欲しいと思えるデザイン性や機能性を備えたものが見つけられませんでした。
それから時は流れて、気づけば世の中はコロナ禍に。それまでインスピレーションを求めて訪れていた海外の展示会にも行けなくなり、国内のニーズに注目するようになりました。その時に、かつて防災バッグ探しで困った経験を思い出したことで、この企画が誕生したんです。収納しやすいサイズ感や、目につく場所に置いても様になる外観。そんなこだわりを詰め込んで、インテリア雑貨メーカーならではの視点で防災バッグを作りたい、という気持ちのもと企画が動き出しました。(本多さん)
キーワードは「想像力」
開発中はどんなことを意識していましたか?
想像力を働かせることを大切に、あらゆる場面を具体的に想定することを心がけていました。例えば、よくある上部だけに開口部があるバッグでは、荷物が取り出しにくかったり、持ち物全体を把握しづらい。生活のスペースが限られる避難所での生活であれば、なおさらです。
そこでクリアしたい目標のひとつとして、中身の把握や出し入れが合理的に行えることを目指しました。 トランクケースのような横開きの設計がそれを叶えつつ、避難所や旅先などで展開すれば壁面収納としても機能することを狙っていました。(大池さん)
海外のメディカルバッグに着目されたとか。
機能性を前提に、手元に置きたいと思えるビジュアルを模索する中で辿り着いたのが、海外のメディカルバッグでした。傷病者の救助に駆けつけた救急隊が、多くの医療器具を使って処置を施すための鞄です。ヨーロッパの警察や消防隊が身にまとうユニフォームや道具に、憧れるようなカッコよさを感じたんです。(大池さん)
頑丈で長く使えることは弊社のキーワードで、軍放出品(ミリタリーサープラス)も多く取り扱っています。その中で本物を身近に見ていた経験が、デザインの参考元としてメディカルバッグに目を向けさせてくれたのかもしれません。(本多さん)
理想の使い心地を目指して
使い勝手の良い工夫が凝らされていますね。
じつはバッグを開発した経験がありませんでした。初めは手探りの部分もありましたが、バッグに求められることのひとつとして「使い勝手のよさ」は地道にこだわり抜きました。例えば重いものを入れても安定して背負いやすいよう、ショルダーベルトの縫い込みを数センチ単位で改良したり、何を入れるかを具体的に想像しながら内側ポケットの素材や配置を変えたり、使いやすさへのこだわりを徹底しています。企画段階から重視していたサイズ感については、社内のシェルフと合わせてみたり、実際に背負って歩いてみることで、避難時にも取り回しやすいサイズを目指しました。(大池さん)
バッグに拡張性を持たせるために、別売りのポーチも用意しました。窓を付けて中身を見やすくしながらも、貴重品や生理用品の利用を想定して、内側には見せずに収納できる仕切りを取り付けています。裏側のベルクロを使ってポーチ自体を防災バッグの内側に固定・収納することもできます。500mlのペットボトルがぴったり収まるぐらいの、あえて大きすぎないサイズ感にしたのは、災害時にもサッと持ち運びやすいことを意識した設計です。(本多さん)
日常的に使っても便利そうですね。
旅行やキャンプなど、アウトドアシーンでの使用も想定しています。バッグ全体の生地を裏返してアジャスターを締めれば、省スペースな壁面収納に早変わり。内側には数種類のポケットがあって、両側面にはウェビング(帯)を等間隔で縫い付けてあるので、いろいろな道具を挟んだり吊るしたり、収納の母艦として使えるんです。(大池さん)
前例のない防災バッグの模索
デザイン面ではどんな苦労がありましたか。
海外のメディカルバッグというイメージを掴んだあと、どうやって防災バッグとして成立させて、どんな外観に仕立てるか、すごく悩みました。防災用品のニュアンスを軸に、DULTONらしい表現や海外の雰囲気をどう演出するかーー。
防災バッグの本質を考えた先で、すぐ目につくような配色こそが求められる条件のひとつであることに気付きました。そこを守りながらも一番カッコいい形でアウトプットしたい。そんな気持ちから、DULTONは大胆なリフレクターの使い方で非日常感を出せないか、というアイデアに至りました。仰々しいTHE防災感を出さずとも、ヨーロッパの警察や消防隊から醸し出されるような締まった顔つきで目立てれば、防災バッグとして成立するんじゃないかと。
デザインパターンは他にもあったのですが、最後まで悩んだのは生地の色でした。弊社は展開するカラーリングにもこだわりがあり、商品開発の場面ではあまり黒が選ばれません。そんな背景もあって社内からはいろいろな声があがりましたが、リフレクター込みの全体像として目立つことを優先して、黒とダークグリーンの2色展開を決断しました。(本多さん)
製作過程はスムーズでしたか。
前例のない商品だったので、本物のメディカルバッグを生産している海外の工場を探すところからスタートしました。最初は図面を渡してもポケットがイメージと逆側に縫製されてしまったり、コミュニケーション方法すらあやふやな状態で(笑)。
インテリア雑貨メーカーが作る防災バッグというニュアンスというか、ビジュアル面に対するこだわりを共有するまでが難しかったですね。一方では時間やコストの制限があるので、修正指示は研ぎ澄ませなければならない。最終的にはオンラインで通訳を挟みながら、辛抱強くやりとりを重ねていきました。(本多さん)
心を豊かにする雑貨の力を信じて
今後の展望をお聞かせください。
備えの提案・発信は社会的にも必要な仕掛けですので、直系のシリーズになるかは未定ですが、何かしらの形で防災を意識したアクションは続けたいと考えています。
発想の転換で雑貨が防災に役立つことも往々にしてあるので、そういうアイデアも発信していきたいですね。インテリア雑貨メーカーとして、備える防災用品の中にも雑貨性のあるものを選んでみて欲しいと思います。不安な気持ちになる災害時、ちょっとした遊び心のあるアイテムが手元にあると、心の余裕にも繋がるんじゃないでしょうか。笑いや音楽から元気をもらえるように、つらい時こそ、雑貨にも心を豊かにするようなアプローチができるのではと信じています。(大池さん)
聞き手・文:D.Sata/SAIBOU PARK/防災士
取材先紹介
本多 勇貴 株式会社ダルトン PRODUCTグループ チームリーダー
YUKI HONDA取材先紹介
大池 由希也 株式会社ダルトン PRODUCTグループ
YUKIYA OIKE新着記事
目次
URLをコピーしました。
Pick Up注目の記事
編集部がピックアップ!
すぐに読みたい旬の記事