Vol.184

京都・西本願寺の防災力【後編】能登地震に学ぶ“寄り添う支援“のかたち

歴史ある文化財として知られる京都・西本願寺は、全国に広がる浄土真宗本願寺派の本山として、平時から地域とのつながりを築いてきました。そのネットワークは、災害時には被災地支援の大きな力となります。

2024年1月の能登半島地震でも、西本願寺はいち早く支援活動を開始。現地で声に耳を傾け、共に汗を流す姿勢は、まさに”寄り添う支援”そのものです。
現場に立ち続けた能登半島地震支援センターのセンター長を務める、川井さんに、防災と共助の知恵について伺いました。

被災地に駆けつけ、継続的な支援を実現する仕組み

とにかく”早く動く”ことを大切にしています。
支援が必要な現場では、1日でも早く声を届けることが、被災者の安心につながるんです。

津波被害の寺院 畳や家具等の家財や流入した土砂の撤去作業前の様子(能登町白丸地区)
(出典:浄土真宗本願寺派 能登半島地震支援センター X

能登半島地震の発災直後、西本願寺は、まずは迅速に先遣隊を派遣。数日以内に現地入りした関係者が、被害状況の把握とニーズの調査を行いました。
その後、週末ごとに現地を訪れ、延べ2,500人が支援活動に参加(2025年5月時点)。支援の拠点となったボランティアセンターは、全国32教区のネットワークを活かして運営され、広域かつ持続的な支援体制が構築されます。

被災した地域の中には、寺院が避難所の機能を果たしている地域もあります。しかし、避難所指定がされていない場合、行政の支援が届きにくい現実があります。まずはそうした場所への後方支援として、宗派内外から人手と物資を集める取り組みが始まります。
迅速さと継続性──両立が困難なこの二つを可能にしているのが、日頃からのつながりと備えです。

(出典:浄土真宗本願寺派 能登半島地震支援センター X

黙々と動くことで信頼が生まれる現場

最初は”なんだこの集団は?”って思われるんです。
でも、作業を重ねるうちに、自然と声をかけてもらえるようになるんです。

京都ナンバーの車、オレンジのベスト。背中には『西本願寺』と大きく書いてあるけれど、お経を読んでもないし、ただ黙々と掃除や片付けをしている集団。最初は不審者のような目で見られることもあるそう。
現地に入った川井さんたちは、まずは無言で清掃や片付けに取り組みます。話を無理に聞き出そうとはせず、黙々と動くことで住民の信頼を得る。──その積み重ねが、やがて本音に近い声を引き出すきっかけになります。

(出典:浄土真宗本願寺派 能登半島地震支援センター X

時には、仏壇の搬出を手伝うこともあるそう。単なる”片付け”ではなく、先祖代々受け継がれてきた「大切なもの」として丁寧に扱います。そうした姿勢が、心に寄り添う支援として住民に伝わっていくのです。

(出典:浄土真宗本願寺派 能登半島地震支援センター X

宗派を越えて、つながりながら支える

立場は関係なく、現場では”やるかやらないか”だけなんです。
学生さんも一般の方も一緒に動いてくれて、本当にありがたい。

現場では、学生や一般ボランティアといった多様な人々と共に支援活動も展開。宗派の垣根を越えたつながりが生まれています。 制約がある中でも、現地の実情に応じて柔軟に動く姿勢が印象的です。炊き出しやそのサポート、仮設住宅でのサロン活動、海岸の清掃、避難所での交流など、支援の形は多岐にわたります。

(出典:浄土真宗本願寺派 能登半島地震支援センター X

被災地でみえた本当に必要な支援とは

生活用水が足りないんです。ペットボトルで水は配られるけど、それで掃除なんかしませんよね。
私たちはポリタンクに満タンの水を持ち込んでます。

支援活動を通して見えてきたのは、見落とされがちなニーズへの対応の大切さ。飲料水は行き届いていても、掃除や洗濯に使う生活用水は不足しがち。川井さんたちは、現地にポリタンクで水を持ち込み、環境整備に活用しています。
さらに、下水道が使えない状況では簡易トイレが必要不可欠。「どこに行っても、欲しいと言われる」といいます。細かな要望は、それこそ十人十色。こうした現場視点の支援が、衛生環境の維持や住民の安心に直結します。現地に足を運ぶことで、初めて真に必要な支援内容が把握できる──その考え方が、”寄り添う支援”の基本姿勢を示しています。

まずこれは備えて!支援活動から学ぶ防災のヒント

川井さんのお話を伺うと、被災地の現場で本当に必要とされていたのは、まずトイレ環境でした。これは、どこに住んでいる人にとっても、災害時に必ず直面する現実です。今日からできる備えとして、次の2つを意識してみてください。

災害時、雨水も掃除水などに有効利用できる

【1.水が使えない状況を想定した備蓄

断水が続くと、飲み水だけでなく、手洗いや洗顔、食器洗いにも困ります。こうした事態に備えるため、以下のような準備をおすすめします。

ー飲料水と生活用水の備蓄を見直す
 最低でも1人1日3リットルを目安に、1週間分をストックしておきましょう。
ー日頃から節水の習慣をつける
 災害時の水不足に備えて、普段から節水意識を持つことで、いざという時にも慌てず対応できます。
ーポリタンクや給水袋の準備を
 給水所に水を取りに行くための容器が必要です。無理せず運べるサイズなども気にかけて。
ー水がなくても清潔に保てるアイテムを用意
 手洗い用の除菌シート、ウェットティッシュ、ドライシャンプーなどがあると安心です。

【2.トイレ問題は想像以上に深刻

災害時、もっとも困ったという声が多いのがトイレの確保です。水が流れない環境では、においや衛生面の問題が深刻化します。近年多発する断水時の備えとしても有効です。

ー携帯トイレは必須の備蓄品
 1人1日5回分が目安。家族の人数に合わせて1週間分以上を確保しておくと安心です。
ー災害時のトイレ設置場所を確認しておく
 自治体が整備するマンホールトイレや仮設トイレの設置場所を、地元の防災マップなどで事前に確認しておきましょう。

寺ができる“共助”の場づくり

最初は必要とされる。でも時間が経つと、少しずつ”自立”に向けた後押しに変わっていくんです。そこが本当に難しいところ

災害支援には段階(フェーズ)があります。発災直後は支援物資や人手が求められますが、次第に心のケアや生活再建のサポートへと移行します。
西本願寺は、仮設住宅や集会所でのサロン活動や傾聴などを通じて、「つながれる場」をつくり続けています。やがては手を離し、地域が自立していくことも見据えた、見守る支援です。

(出典:浄土真宗本願寺派 能登半島地震支援センター X

自らも被災地になるという備え

京都の玄関口ともいえる場所にある寺院なので、”いざ”という時には周囲と連携し、重要な役割を担います。

京都・西本願寺は、京都の主要部にある寺院として「被災する側」であると同時に「支援する側」でもあります。京都市では、大規模地震等の災害発生時に、観光客、通勤・通学者など約37万人が帰宅困難者になると想定されています。帰宅困難者の安全確保等の為、市街地の広域で寺社や宿泊施設等の事業者との取り組みを進めています。 (くわしくはこちら:京都市の帰宅困難者対策について 京都市防災ポータルサイト

京都駅周辺の緊急避難広場(京都市帰宅困難者ガイドマップより抜粋)


そのため、西本願寺も災害時緊急避難広場としての役割も担っており、京都市と連携し、帰宅困難者の受け入れを想定した備えをしています。
境内に設置された倉庫には、非常食やアルミブランケットなどを備蓄。「被災地を支える」だけでなく、「自分たちも被災者になるかもしれない」という意識が、防災の幅を広げているのです。

敷地内にある防災倉庫ー災害時の備蓄や支援の際の備品などがずらり
敷地内にある災害用備蓄(京都市)

支援のあり方に、防災のヒントを見つける

地震発生直後の迅速な対応、無言で丁寧に寄り添う姿勢、多様な人と手を取り合う柔軟性。そして、時間とともに変化するニーズへのきめ細やかな対応──西本願寺の支援活動は、共助の本質を体現しています。
信念を礎に、人とつながる力。それは、災害時だけでなく、私たちのふだんの暮らしにも通じる大切な姿勢かもしれません。

取材・執筆:SAIBOU PARK MAGAZINE編集部
監修:SAIBOU PARK/防災士

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京都・西本願寺の防災力【前編】世界遺産を守る静かな知恵

取材先紹介

川井 周裕 浄土真宗本願寺派 社会部課長 / 能登半島地震支援センター センター長

SHUYU KAWAI

西本願寺(龍谷山 本願寺)
京都市下京区に所在する浄土真宗本願寺派の本山で、世界文化遺産にも登録されている歴史的寺院です。正式名称は「龍谷山 本願寺」。親鸞聖人の教えを受け継ぎ、阿弥陀如来をご本尊としています。
創建は1272年、親鸞聖人の墓所に建てられたお堂がはじまりです。現在の伽藍は、桃山時代の荘厳な建築様式を今に伝え、御影堂や阿弥陀堂など多くの建造物が国宝や重要文化財に指定されています。
文化財の保存や防災対策に力を入れるとともに、災害時の支援活動や地域社会への貢献にも積極的に取り組んでいます。

目次

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