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Vol.52
水害対策に革新を!発想の転換が生んだ「水のう君Ⅱ」の誕生秘話
災害用トイレの大手メーカーとして知られる、株式会社総合サービス。1982年創業の同社は災害用トイレ「サニタクリーン」だけでなく、水のうの開発にも力を入れています。昔ながらの土のうに代わる水害対策の新定番ともいえる、水のうを商品化したことで人気を博している「水のう君Ⅱ」。今回は同社の代表を務める新妻さん、商品開発部の新山さん、営業部の榎本さんにその開発ストーリーを伺いました。(写真:右から新妻さん、新山さん、榎本さん)
きっかけはお客様からの相談
「水のう君」シリーズの企画はどのように生まれたのでしょうか。
当時、別商品のお仕事でマンションオーナー様とのお付き合いがありました。その物件の駐車場は半地下という立地のせいで浸水のリスクが高く、何かしら対策できないかと相談されたんです。
都市部では土のうを作ろうにも土が少ない。用意から設置、撤去までが重労働ですし、使用後は土が散乱したり腐敗して処理が大変です。さらに土のうは使用後に処分すると有料の産業廃棄物になってしまうので、別の手段を考えることにしました。
水害対策に使えないかと目をつけたのが、弊社の代表商品である災害用トイレ「サニタクリーン」でした。袋に特殊な吸水ポリマーが仕込んであって、用を足すと水分を吸収してサラリと処理できる商品です。この吸水ポリマーを転用することで何かできないか、と考え始めたのが「水のう君」誕生の第一歩でした。
封じられた自慢の技術
社内の既存技術を転用しようとされたんですね。
いわゆる「吸水ポリマー土のう」を作ろうとしたんですが、早々に問題が発覚しまして……。まず吸水ポリマー土のうは、事前に水を吸わせてから積み上げる必要があるんです。かなり時間がかかり、吸水させると重くて運びづらい。しかも使用後に放置すれば腐敗して悪臭がしますし、捨てようにも産業廃棄物の扱いになるので、そう簡単に捨てることもできない。非常用トイレでは重宝する吸水ポリマーが、いざ土のうに転用しようとすると厄介な性質だということがわかったんです。これこそが、吸水シートの元祖といわれる会社がなぜ、水害対策用品に吸水ポリマーを使わなかったのかという理由です。
そこで発想を「水のう」に転換されたのですね。
じつは当時マンションの駐車場だけでなく、銀行の屋外ATMコーナーの浸水対策に使える商品も欲しいという相談を受けていました。力の弱い方でも使いやすい水害対策をリサーチするなかで辿り着いたのが、水のうでした。当時からDIYとしてポリ袋やビニールシートと段ボールで作る方法は知られていたのですが、まだ市場には商品として広まっていなかったこともあり、商品開発をスタートしました。
思いがけない改善点
開発を再開するにあたり、再び目をつけたのが社内の既存技術でした。もともと東京都に納品していた実績を持つ、非常用給水袋です。開口部に特殊な高密閉チャックを備えたポリエチレンの袋で、水を密封して持ち運ぶ商品です。この密閉技術を転用して誕生したのが、初代の「水のう君Ⅰ」でした。
水のうは、使いたい場所にホースを引いて袋に水を入れるだけで設置が完了します。土のうよりも本体がフレキシブルなので隙間ができにくく、止水性能は土のうや吸水ポリマー土のうと同等もしくはそれ以上です。一度用意してしまうと処分に手間のかかる土のうや吸水ポリマー土のうと違って、水のうは簡単に何度も再利用ができます。「準備したけど、結局水害は来なかった」という空振りのリスクを気にする必要がなく、経済的に繰り返し使えるが水のうの魅力です。
使い勝手も止水性能も、申し分なさそうですが……。
ところが販売後すぐ、あることに気づきました。 もともとの給水袋は開口部が上に来る状態で使うのですが、「水のう君I」は多くの水を入れて横にして使います。この開口部が大きいという特徴について、人によっては高密閉チャックを締めたり、持ち運びをするときに扱いづらいと感じるという声が寄せられたのです。
二度の改良を重ねて
そんな改善点を補って生まれたのが「水のう君Ⅱ」ですか。
吸水ポリマーに続き、高密閉チャックも水のうには使えない……。私たちのノウハウがことごとく通用しない、という挫折を経て誕生したのが「水のう君Ⅱ」です。給水口には、市販のペットボトルの飲み口よりも数センチ大きな、専用の口径キャップを採用。給水ホースさえご用意いただけば、口径キャップにホースを差し込むだけで準備ができます。最大容量は9Lなので、力の弱い方でも積み上げることができるかと思います。
なんと使用後の水は飲むこともできるとか。
本体のフィルムは食品衛生法に適合しているので、水のうとして以外にも、給水袋として飲料水の運搬や一時的な保管にもお使いいただけます。飲まずとも、使用後の水は周辺の泥を洗い流すのに使ったり、本体は乾かして保管すれば再利用できるので、資源をムダにすることがありません。
事前防災の大切さに気づいて
今後の展望をお聞かせください。
「水のう君」シリーズは、さらに改良を重ねたものを開発できるよう、日々チャレンジしています。準備から設置までの、作業効率が上がるようなバージョンアップができればと考えています。
都市部を中心に、台風の大型化やゲリラ豪雨による水害が深刻化しています。災害が起きてから事態の深刻さに気づくのでは遅すぎますので、あくまでもあらかじめ備えを用意しておく。「事前防災」の大切さを、ひとりでも多くの方に意識していただけたらと思います。
聞き手・文:D.Sata/SAIBOU PARK/防災士
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