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Vol.25
もらってうれしい防災の贈りもの。災害現場での経験が生んだ「LIFEGIFT」の開発ストーリー
「人々が自然と防災に取り組める社会を創造する」をビジョンに掲げ、2019年にスタートした株式会社KOKUA。日常生活に調和する防災グッズを集めたカタログギフト「LIFEGIFT」は、防災を贈るという文化を生み、連日メディアでも取り上げられ一躍話題の商品に。2021年度のグッドデザイン賞では、カタログギフトによって備える機会を提供するという視点が評価され、防災用品部門のグッドデザイン賞を受賞しました。今回は同社の共同代表を務める、泉勇作さんと疋田裕二さんにお話を伺いました。(トップ写真は右から泉さん、疋田さん、広報担当の中山さん)
被災地で感じた「備えるきっかけ作り」の大切さ
メンバーは皆さん災害ボランティアのご経験をお持ちだとか。
はい、私たちの活動のはじまりは学生時代にさかのぼります。当時から私たちは災害救援に行ったり、NPOに所属して学生向けに災害時の対応について講習を実施したり、自治体の防災訓練の支援をしてきました。そういった活動の中で知り合った仲間で集まり、ここ数年は法人向けの研修プログラムや、イベントを通して防災を学ぶ機会を提案していたのですが、新型コロナウイルスの感染が拡大してしまい……。改めて私たちが本当にしたいことを考えた結果、個人に対して「防災」を広げていく活動をしていこうということに。(泉さん)
災害救援は、あくまでも被災地の手助けをする手段で、災害による被害を減らすための行動ではありません。そこで災害対策に関心の薄い人もターゲットに含め、防災用品を手元に置いてもらうことで、少しでも被害を防いだり軽減できないか、という想いから発案されたのが「LIFEGIFT」でした。(泉さん)
私は直近では平成30年7月豪雨災害(西日本豪雨災害とも)の被害を受けた、愛媛県宇和島市に災害ボランティアとして入りました。これまで個人的に様々な被災地を支援しに行きましたが、住民の意識が備えることに向いていて、災害時にどんな行動を取ればいいかまで考えられている地域では、比較的被害が軽減されていたように感じます。そういった防災意識を根付かせるのは簡単ではありませんが、私たちの事業が備えるためのきっかけになれたらと考えています。(疋田さん)
暮らしの一部として自然に防災を
防災という観点で、どんな社会を目指していますか。
日本という自然豊かな国土で暮らしていく限り、自然災害を避けては通れません。ただ被害に遭うのが怖いから備える、というよりも「この日本で豊かに生きていくために、自然と共生していくために」という目的意識があるといいのではないでしょうか。自宅周辺の川や森といった環境に意識を向けることで、そこにある災害リスクも知っていくというような、暮らしの一部として自然に防災のことを捉えられる世の中になればと考えています。(泉さん)
私は海や川に囲まれた湘南エリアに住んでいて、肌感覚ではありますが、地元には津波や氾濫リスクを承知したうえで住んでいる方が多く、地域の防災意識は高いように感じています。湘南エリアの住人は、海が好きだったり、アウトドアを楽しむライフスタイルの方が多く、その分、自然災害との向き合い方を日頃からイメージしている方が多い印象です。豊かな自然と災害は表裏一体なので、私も自然といっしょに暮らしていくというスタイルを確立したいと思っています。(疋田さん)
背中を押した被災地での経験や周囲からの応援
印象的な商品ラインアップはどのように揃えられたのでしょうか。
災害対策は発災前の備えから始まり、タイムラインのどこを想定するかによって必要なものが場面によって変わっていきます。「LIFEGIFT」では、どのシーンでも活躍が期待できるものを網羅的に取り揃えているのですが、商品の選定は、私たちが被災地で見聞きしてきたトラブルや困りごとを背景にピックアップしています。地震のあとに火があがって家が燃えてしまったとか、避難所でプライバシーが確保できていないといった状況を目の当たりにしたことが、現在の商品ラインアップにつながっています(泉さん)
デザイン性と実用性の両軸を重視しているので、商品選定はとくに注力しました。見た目がいいだけでは防災用品として意味がありませんし、実用性だけではプレゼントとしての魅力が半減してしまう。片方が欠けただけで「防災のきっかけを贈りものとして提供する」という目的が達成できなくなってしまうので、慎重に選定していきました。(疋田さん)
準備段階では苦労される点も多かったとか。
まだ法人化する前だったのですが、一社ずつ連絡をとって「いのちをまもる防災カタログギフト」というコンセプトから説明していきました。事業実績や販売経験のない私たちでしたが、意外にも防災メーカーの方は「LIFEGIFT」の世界観を実現するために協力したい、と仰ってくださることが多かったです。なかには「企業間のボーダーを超えた防災のカタログギフトを作りたい」という気持ちを前々から持っていたという方もいらっしゃいました。(泉さん)
とはいえ当時はまだ「防災を贈る」という文化が広まっていない頃。企画から価格帯まで含め、本当にこの商品が売れるかどうか確信が持てず不安に感じることも。また商品開発の経験も浅かったため、デザインや値付け、ブランディングまで手探りで進めていくしかありませんでした。一方で「LIFEGIFT」の資金調達はクラウドファンディングを利用したのですが、その段階で300人近くの方から支援いただくことができたので、このあたりから潜在的なニーズを信じられるようになっていきました。(疋田さん)
贈り手の想いが伝わる特別な贈りものとして
コロナ禍でギフト需要に変化はありましたか。
そうですね、遠方のご両親や親戚に向けて贈る方が増えています。プレゼントはコミュニケーションのひとつですので、コロナ禍で会えなくなってしまった方との交流手段のひとつとして、贈りものを選ぶお客様が増えたのではと感じています。(疋田さん)
メッセージカードを添えて直接プレゼント先の方に贈るという利用シーンが増えていますね。そういった状況を受けて、最近「LIFEGIFT」の外箱のデザインを刷新しましたので、カタログ本体を開く前から感動体験を届けられるようになりました。(泉さん)
ちょっと意外なニーズも増えているとか。
意外と多いのが、お寺からのご注文なんです。お付き合いのある他のお寺に贈ったり、檀家様へのお配りものなどに使われているそうです。毎年同じものを贈るのも申し訳ないし、かといって一般的なカタログギフトは生ものが載っていて選びづらい。そこで私たちの「いのちをまもるカタログギフト」や「あなたの無事が、いちばん大事」というブランドコンセプトに共感してくださる方が多いようで。同時に、お寺は地域の防災拠点になることが多いんです。いざという時に地域の方が頼りにする場所であることに加えて、建物自体が木造である場合が多いので、お寺の方は災害への意識が高いことが多いことが背景にあるようです。(泉さん)
ほかには保険、自動車、不動産業界での顧客へのお礼として使われるケースが増えてきています。たとえば茨城トヨタ自動車株式会社様では車を購入いただいた方への返礼品として「LIFEGIFT」をご活用いただきました。お客様に向けて安心安全をお届けするような業界では、普通のプレゼントよりも、企業側の気持ちを贈りもので体現するためのコミュニケーションツールとして使っていただけるのではと分析しています。(疋田さん)
今後の活動や展望について教えてください。
ここまで良い反響をいただいているので、さらにお買い求めやすい価格帯を意識した、カジュアルなプチギフトとしても使いやすい「LIFEGIFT」を販売できればと計画しています。弊社は、防災をいかに自然に無理なく届けるか、というビジョンを掲げています。その達成手段は、ものづくりをはじめ、ITのシステム開発など様々だと解釈していますので、幅広いアプローチができればと考えています。直近では、企業様を通して防災を世の中に広げられるような仕掛けをご用意しておりますので、是非楽しみにしていただければと思います。(泉さん)
聞き手・文:D.Sata/SAIBOU PARK/防災士
LIFEGIFT ライフギフト 贈る防災 カタログギフト 14,650円(税込)
取材先紹介
株式会社KOKUA
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